はじめに
2019年12月中国湖北省武漢市で原因不明の肺炎が多発するという形で姿を現したこのウイルス(SARS-CoV-2)感染症は、WHOにより “COVID-19(新型コロナウイルス感染症) ”と名付けられました。
日本においても2020年1月15日に国内で初めての感染者が報告され、瞬く間に全世界に広がりました。
遅ればせながらWHOも1月31日に緊急事態宣言パンデミックを発表し、全世界に注意喚起を促しました。日本でも、2月1日に指定感染症となりました。
しかし、感染拡大は抑えられず4月7日には緊急事態宣言が発令され、全国民が人との接触を8割減らすという自粛生活を与儀なくされることとなりました。
その結果日本では、累計感染者数16623人、死者数も846人とある程度の抑え込みに成功し、5月25日に全国の緊急事態宣言が解除されるに至りました。
ただ、全世界的に見れば累計患者数は530万人、死亡者数は34万人、毎日10万人近い新規患者数が報告されており、その勢いは未だとどまるところを知らないというのが現状です。
感染経路
患者の多くが生きた動物や魚介類を扱う武漢市にある華南海鮮市場と接点があったことから、何らかの動物からヒト→ヒトへと感染が広がったと思われます。
飛沫感染(感染している人の咳や会話によるしぶきなど)が主体ですが、接触感染(ウイルスの含まれる痰や唾液等のついたもの→手→口・鼻・目)も重要な感染経路です。
しかし、最近エアロゾルによる空気感染も問題視しされ、3密を避けることの重要性が言われています。
感染期間・感染性
潜伏期間は1-14日(中央値5.1)で、ほぼ12日以内に発症しています。
ウイルスの排泄は、発症する2.3日前から始まり、発症直後に感染力が最も強いといわれています。
すなわち、発症がわかる前から人に移す(元気に見えるあなたが感染源になる可能性も否定できない)ことがあることを十分理解して行動することが大切です。
症状
発熱、喉の痛み、咳、痰、頭痛、倦怠感などの風邪のような症状で終わる場合が多いとされていますが、発症8日目前後に高熱、胸部不快感、呼吸困難などが出現し、肺炎へ進展する事もあります。
トイレ、入浴など日常の軽い動作での息切れには注意が必要です。
重症化は高齢者や基礎疾患(心血管疾患、糖尿病、高血圧、悪性腫瘍、慢性呼吸器疾患など)を有する方で多く見られる一方、小児や若年層のなかには、感染してもほとんど症状が現れない無症状病原体保有者が存在します。
また、3割程度に嗅覚・味覚異常(若者、女性に多い傾向)、1割程度に下痢や吐き気などの消化器症状、頭痛がみられます。
臨床経過
中国CDCによる4.5万例の集計によると、80%が軽症(普通の風邪と同様に自然軽快することが多いようですが、高齢者や基礎疾患所ある方は入院、インフルエンザの10倍辛かったという表現をされた方もいます。
また、自宅待機中に亡くなられた方もおられるなど軽症例にはかなり症状の幅があるようです。
2週間自粛していれば軽症者全員がほぼ無症状でいられるというわけではありません。)、15%が重症で人工呼吸器、5%がECMO(体外式膜型人工肺といって体外の人工肺で命をつないで、自分の肺の回復を待つというもので、東京都内に170余台、県によっては数台しかなく、また、1台稼働させるために多数の医療関係者が24時間体制で管理する必要があり、実働はもっと少ないかもしれません)による救命処置がなされます。
致命率は2.3%と報告されていますが、ほとんどは持病の多い70歳以上の高齢者です。
重症化のリスク因子は、高齢者、基礎疾患(糖尿病、心不全、慢性呼吸器疾患、高血圧、がん)、喫煙歴のある方です。
日本での致死率は70歳台5.6%、80歳以上は11.9%となっています。
合併症として、若年者の脳梗塞や軽症者の突然死から血栓症の関与が指摘されています。
また、小児では川崎病様の症状を呈することもあるようです。
最近は、症例の積み重ねにより重症度分類がなされ、軽症、中等症Ⅰ、中等症Ⅱ、重症により細かな対応ができるようになってきました。
診断・検査
基本的な診断の流れとしては、かかりつけ医を受診診断、帰国者・接触者センター(新型コロナ受診相談窓口)から直接指定病院を紹介され、医師が必要性を認めた場合にPCR検査や抗原検査が行われます。
現在はPCR法(簡単に言うと、コロナウイルスの一部の遺伝子を増幅させて認識できるようにする方法です)で判定していますが、感度(陽性者の確定)は70%程度、特異度(陰性者の確定)は99%と言われています。
特異度が高い検査なので、確定診断に用いられています。
すなわち、陽性者はほぼ間違いなくコロナウイルス感染者であるといえます。
しかし、逆に言うと、10人検査すると陽性にもかかわらず3人の見落としが生じている可能性もあるわけです。
ですから、採取法の問題や時間的な問題で初回陰性者が陽性に転じることもありうる検査なのです。
その意味でも、なかなか検査を受けられない現状にもかかわらず、医師がPCR検査を必要とするだけの症状であると判断された方は、たとえ陰性であっても最低でも1週間程度は外出を自粛し、同居者がいる場合は十分に感染予防対策をされることをお勧めします。
抗原検査は、ウイルスに感染した細胞が産生する抗原を検知し診断するもので、陽性者は確定診断となりますが、陰性者はPCR検査が必要になることもあります。
約30分で判定できますが、検査に反応する量のウイルスが必要なため、現時点での使用は限定的です。
しかし、現在世界各国の多数のメーカーにより我先にと、簡便で迅速に結果が判明する検査法の開発が進められ、異例の速さでいくつかの検査が承認されていくものと思われます。
ただ、残念ながら、我々かかりつけ医がおこなえるのは、酸素飽和度検査、採血や胸部レントゲン検査、可能であればすでにあるインフルエンザ・溶連菌・アデノウイルスなどの簡易キットをおこなうくらいです。
しかし、我々医療従事者側の感染防御態勢が十分な施設は少なく、自覚症状、酸素飽和度、採血、胸部レントゲン検査などで判断されることが多いのではないかと思われます。
治療
軽症の場合には対症療法(熱や咳などの症状を抑える治療)をおこない約2週間で完治するといわれています。
しかし、肺炎に進展してしまった場合は入院し、酸素投与や全身循環管理が必要となることもあります。
その場合、抗ウイルス薬の投与が奏効する方もいらっしゃいますが、効果は一定しているわけではありません。
さらに、重症化した場合には、人工呼吸器、体外式膜式人工肺(ECMO:人工肺とポンプで肺の代替を行う装置)を使用しなければならないこともあります。
抗ウイルス薬としては、新型インフルエンザ薬のアビガン、抗HIV治療薬の一種であるカレトラ、エボラ出血熱治療薬のレムデシビルなどの臨床試験がおこなわれていますし、他にも多数の研究が進んでいます。
同時にワクチン開発も進められていますが、実用化にはもう少し時間が必要と思われます。
予防
4月7日に緊急事態宣言が出て1か月半余りが経過し、ついに5/25首都圏も含め全面的に緊急事態宣言が解除となりました。
政府の言うように段階的に日常を取り戻していけることを願ってはいますが、ワクチンという盾も、薬という鉾もない中、この目に見えない敵であるSARS-CoV-2はくすぶり続けています。
有効性のあるワクチンや特効薬が開発されるまでの対抗策は、感染しないようにしっかりと予防していくしかないのです。
すなわち、緊急事態宣言が解除されたからと言っても、そこに待っているのは新型コロナと共存せざるを得ないアフターコロナの日常であることを自覚しなくてはなりません。
連日の報道で声高に言われているように、3蜜(換気の悪い密閉空間、多数が集まる密集場所、お互いに手を伸ばしたら届く範囲での会話や発声をする密接場所)は、可能な限り避けるべきでしょう。
換気としてはお部屋の窓を1時間に2回、5分程度全開にすることが望ましいようです。
密集場所に関しては、これから日常が戻るに従い、通勤の車内やエレベーター、食堂、会議室など避けられない場面も増えてくると思われ、外出時のマスクは必須(品薄状態も徐々に改善されつつあるようです。
但し、熱がこもることや飲水しにくいことなどから、これからの季節は熱中症のリスクも考えなければなりません。
屋外で他人と十分な距離が保てていれば、マスクは外して水分補給にも注意が必要となるでしょう。)ですが、できれば飛沫防御の眼鏡、消毒液の持参まで考えることも必要なのかもしれません。
そして、この自粛期間中と同様、外出後の手洗い、咳エチケットなどの継続は必須です。
また、喫煙はこの感染症の重症化率を2.2倍、死亡率を3.2倍に増加させるといわれています。
予想される、第2波、3波のためにも禁煙は今からでも遅くはありません。
風邪症状が出てしまったとき
いわゆる数日で完治する普通の風邪など、発熱や咳の原因となるウイルスは新型コロナウイルス以外にも無数に存在しています。
ですから、どんなに予防していても、発熱、くしゃみ・鼻水、咳の症状が出ることは避けられないことです。
が、以前は、インフルエンザも含め診断方法か確立され、ある程度正確な鑑別診断ができていました。
しかし、今後は残念ながら(医療従事者の感染防護が不十分な中で飛沫を受けるインフルエンザなどの簡易キット検査が実施困難な場合)従来のウイルス感染症と新型コロナウイルス感染症の完璧な鑑別は困難と言わざるを得ません。
したがって、万一を考え、すべて新型コロナウイルス感染者かもしれないとして初動するしかありません。
当院では、一般の患者さんとは接触しないように、院外の敷地にて診療に当たりますのでご了承ください。
軽症と思われ自宅待機中のPCR陽性者の中から亡くなられる方が散見されたことから、突然37.5度以上が4日以上という絶対的な基準?がある意味緩和され、相談・受診の目安が変更になりました。
- 息苦しさ、強いだるさ、高熱などの強い症状のいずれかがある。
- 高齢者や基礎疾患(糖尿病・心不全・呼吸器疾患や透析中・免疫抑制剤使用中など)があり、発熱や咳など軽い感冒症状がある。
- 上記以外でも、発熱や咳など軽い感冒症状が続く
これに当てはまる場合はかかりつけ医または、帰国者・接触者相談センター(新型コロナ相談センター)に直接電話が可能となりました。
最後に
新型コロナウイルスに関する政策、知見は日々更新されている状況ですので、最新の情報を厚生労働省や日本医師会ホームページでご確認ください。