認知症
1.認知症とは
人間誰しも年を重ねるたびに、シワは増え体力やもの覚えは悪くなっていきます。
こうした変化は老化によるもので残念ながら避けて通れない現実です。
いわゆる“物忘れ”は脳の老化現象としてどなたにでも起こってきます。しかし、認知症は脳の老化とは違い、何らかの病気により脳の神経細胞が破壊されるために正常に機能しなくなることにより起こる症状や状態をいいます
症状が進行すると記憶を含む多くの認知機能(判断力、理解力や言語能力など)が低下していき社会生活に支障をきたすようになります。
2.物忘れの比較
老化による物忘れ | 認知症による物忘れ |
---|---|
脳の生理的な老化による | 脳神経細胞の変性や脱落 |
体験の一部を忘れる | 体験の全部を忘れる |
ヒントによりその体験を思い出せる | ヒントによっても思い出せない |
探し物を見けだそうと努力する | 探し物を誰かに盗まれたと言い出す |
見当識(日時・場所など)障害はない | 見当識障害がある |
作話(その場しのぎのつじつま合わせ)はない | 作話がある |
物忘れを自覚している | 物忘れの自覚がない |
進行遅く日常生活には支障をきたさない | 進行性で日常生活に支障をきたす |
3.認知症の頻度
我が国では高齢化の進展とともに、認知症患者の人数も増加しています。
65歳以上の高齢者では平成24年度の時点で、約462万人と推定されています。
なお、認知症の前段階と考えられている軽度認知障害(MCI)の人も加えると約862万人と4人に1人の割合となります。
超高齢化社会へと突入する日本では認知症の人は増え続けると予想されており、2025年には認知症患者だけで700万人を超えると推測されており、65歳以上の5人に一人が認知症という計算になります。
4.三大認知症の頻度と特徴
最も多いのが認知症の50%強を占めるといわれるアルツハイマー型認知症です。
次いで塩分摂取の多い日本人は脳血管性認知症が20%弱と多いと言われていましたが、最近注目されているレビー小体型認知症も20%近くあることがわかってきました。
その他にも多数の認知症がありますが全部合わせても10%程度といわれています。
監修:横浜市立大学 名誉教授 小阪憲司 筑波大学大学院 人間総合科学研究科 教授 水上勝義
5.その他の認知症
前頭側頭葉型認知症、慢性硬膜下血腫、正常圧水頭症、甲状腺機能低下症、脳腫瘍、薬物、アルコール、ビタミン欠乏症、クロイツフェルトヤコブ病、HIV関連認知症など
6.治療や予防が可能な認知症
脳血管障害で起こる血管性認知症は、高血圧、糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病をしっかり治療することで予防や進行の抑制が可能です。
頭部外傷によっておこる慢性硬膜下血腫や、脳室が拡大して起こる正常圧水頭症は脳外科手術によって治療が可能です。
また、甲状腺機能低下症は甲状腺ホルモンの補充で、ビタミン欠乏症に起因する認知症はビタミンの補充で改善します。
MCIスクリーニング検査
1.MCI(軽度認知機能障害)とは
Petersen により次のように定義されました。
- 記憶障害の訴えが本人または家族から認められている
- 日常生活動作は正常
- 全般的認知機能は正常
- 年齢や教育レベルの影響のみでは説明できない記憶障害が存在する
- 認知症ではない
即ち、日常生活はほぼ問題なく送ることが出来ていますが、認知症になる前段階の状態で、何もしなければ数年で約半数の人が認知症になる可能性があります。
しかし、MCIの段階で適切な治療を受ければ14-44%の人が改善するという研究結果が出ています。
2.アルツハイマー型認知症発症までの経緯
アルツハイマー型認知症は、アミロイドベータ蛋白という老廃物が脳に蓄積し、神経細胞を破壊することで発症します。
この蛋白は発症の約20年前から脳に溜まり始め、認知機能は徐々に低下、MCIの段階を経てアルツハイマー型認知症へと移行していきます。
3.MCIスクリーニング検査とは
アルツハイマー型認知症の前段階であるMCIのリスクをはかる血液検査です。
この検査では、アミロイドベータ蛋白の排除や毒性に対する防御をおこなっている血液中の3種類のタンパク質(アポリポタンパク質A1、補体第3成分、トランスサイレチン)を測定し、MCIのリスクを判定しています。
これらのタンパク質が低いと、アミロイドベータ蛋白が溜まりやすくなり、認知症へと移行しやすくなると考えられます。
健康診断と同じように定期的に検査を受けることで、ご自身の変化に早い段階で気づくことが出来ます。
アルツハイマー型認知症の発症年齢が70歳と考えると、アミロイドベータ蛋白の蓄積が始まる20年を逆算して、50歳を過ぎたら一度検査してみてはいかがでしょうか。
判定結果はA~Dの4段階でお知らせします。
A:1-2年に1回は検査を受けましょう。
B:毎年定期的に検査しましょう。
C:6ヶ月から1年毎の検査をしましょう。
D:二次検査をお勧めします。
なお、保険適応はありませんので自費診療となります。
APOE遺伝子検査
1.APOE遺伝子とは
アルツハイマー型認知症の発症に深く関わっているアミロイドベータ蛋白の蓄積や凝集に関係する物質の一つがアポリポタンパク質Eです。
それを司る遺伝子がAPOE遺伝子で、主にε(イプシロン)2,3,4の3種類があり、2つで一組の遺伝子型を構成しています。
そして、ε4の有無がアルツハイマー型認知症の発症と強く相関していることがわかっています。
ε4を1つないし2つ持っている遺伝子型の発症リスクは3~12倍と言われています。
2.APOE遺伝子検査とは
あなたのAPOE遺伝子型を調べることにより、アルツハイマー型認知症の発症リスクを知る血液検査です。
将来の発症の有無を判定する検査ではありません。
すなわち、ε4の遺伝子型を持っている方が全員アルツハイマー型認知症になるわけではないのです。
その発症にはこれらの遺伝子的要因以外に加齢や生活習慣なども大きく関係しています。
生活習慣の改善や適切な予防は、アルツハイマー型認知症の発症予防になることが最近の研究でわかってきています。
こうしたことから、APOE遺伝子検査でその発症リスクを知っておくことは意味があると思われます。遺伝子型は変わりませんので、一生に一度受ければ再検査の必要はありません。
なお、保険適応はありませんので自費診療となります。